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これは「地獄の大増税」への布石である…政府が進める「私立高校無償化」の甘美なウソにだまされてはいけない

「ヤフー」のホームページより,3/21(金) 8:17配信

「PRESIDENT Online」

公立・私立を問わず、所得制限なしに、高校の授業料が無償化されることになった。早稲田大学公共政策研究所の渡瀬裕哉さんは「教育の無償化ではなく『税負担化』だ。増税につながるだけでなく、教育の質を悪化させる愚策ではないか」という――。

 

■私学の教育無償化が全国で行われることに

 自民・公明・日本維新の会が来年度予算に賛成したことで、私学の教育無償化が全国的に行われることになった。そして、日本維新の会はさらに大学無償化まで実現するように推し進めるという。

 

この教育無償化は「教育税負担化」と言い換えて良い。石破首相は「歳入・歳出両面の措置を徹底的に行い、安定的かつ恒久的な財源を見いだすことは政府の責務だ」としている。このような発言は将来的な増税によって賄うシグナルのようなものだ。

 

大阪府で私学の教育税負担化を行ってきた大阪維新の会(≒日本維新の会)は「増税ではなく行政改革で予算を捻出してきた」と主張している。大阪府は来年度予算でも高校や大阪公立大学の授業料税負担化のために約297億円を計上している。ただし、実際にはアベノミクスによる税収増や消費税増税効果による歳入増があり、なおかつ教育税負担化予算を計上しなければ一部見直しが可能であった過去から継続する法人税超過課税を放置している現実を無視した話なので「行革で云々」は話半分だ。  

 

そして、大阪府はみずからが導入した教育税負担化について、国による高校授業料無償化の拡充によって府の財政負担は、2025年度に約37億円、2026年度に約254億円を削減できるとしている。つまり、大阪府は自分勝手に始めた政策の負担を最終的には国に背負わせることに成功したということだ。すでに高等教育の税負担化を実現している東京都の予算額である約600億円を足し合わせると、約900億円弱の負担が東京・大阪の二大都市から消えることになる。

 

■結果として、永遠に続く「サブスク払い」となる  

日本全体で私立高校の教育税負担化を実現するためには約6000億円が必要とされている。東京・大阪の約900億円は全予算の約15%を占めているが、他の道府県はそのような過剰な予算捻出は予算の優先順位等の観点から行われていない。都市部の金満自治体の感覚をそのまま他の道府県にまで押し付けた場合、本来はそのような予算が無かった地域にも新たな予算バラマキが行われることになる。  

 

当たり前であるが、政府与党はこのような恒久的な予算支出を増税の好機と捉えるであろう。教育税負担化の約2倍の恒久的支出である防衛増税は、今回の自公維の賛成によってしっかりと恒久増税化の道筋がつけられていることからもお察しだ。結果として、この手の予算支出は永遠に続くサブスク払いとなって国民全員の税負担となって返ってくるものだ。  

 

仮に日本維新の会が「行政改革によって予算を捻出する」というなら、今すぐ与党入りして来年度の骨太の方針にその旨明記し参議院議員選挙で審判を受けるべきであるが、その見通しも無さそうだ。実に無責任な政治の有様であり、政府与党による増税の仕込みは着々と進むだろう。

 

■そもそも、日本の高校進学率は98%超  

さて、教育税負担化は実際にはどのような効果が期待できるのであろうか。そもそも日本の高校進学率は98%超であるため、教育税負担化を実施したところで統計的に有意な差がもたらされないだろう。  

 

むしろ、これ以上の高校進学率の上昇を望むならば、6000億円もの予算を投じて私立高校の授業料を税負担化するよりも、国民に対する義務教育の延長や奨学金の拡充によって達成するほうがはるかに合理的である。誰がどう見ても当たり前の話であり、その教育税負担化のための予算の一部でも使って公立学校の環境改善に投じたほうが良い結果が得られるだろう。  

 

筆者は親が教育に支出する行為は、社会規範や道徳心を育むことにつながると考えるため、教育に対する過剰な税負担にはそもそも反対の立場であるが、私立の教育税負担化という天下の愚策に比べればはるかにマシである。

 

■塾・予備校への実質的な「補助金」  

次に、教育の質という点ではどうだろうか。世界の15歳の子どもたちの学習到達度を図るPISAにおいて、日本はほぼ常に上位国となっている。2022年ランキングでは日本は数学リテラシー5位、科学リテラシー2位、読解力3位である。日本よりも上位の国はシンガポール、マカオ、香港、台湾、アイルランドなどの小都市国家のみだ。つまり、現行の日本の中学校までの教育水準は諸外国と比べてほぼトップの成績を残している。  

 

日本の公立教育が優れているのか、それとも日本人自体の資質がそうさせるのかはわからないが、このような状況が高校進学した途端に激変するとは到底思えない。したがって、現在の教育システムを変更して、新たな税負担を講じて私立学校に通わせる必要があるとは言いがたい。  

 

一方、私立高校の授業料税負担化は、中長期的にその教育内容を悪化させていくことになるだろう。これは何も難しい話ではなく、当たり前の商売の常識を持っていればわかることだ。価格は商品の良し悪しを判定するためのツールである。

したがって、授業料の価格システムが破壊された場合、親の学校教育に対する期待値の判定は、ブランドネームのみに左右される極めて権威主義的な状態が蔓延することになる。  

 

ただし、最初はある程度は学校選択の方法として機能するかもしれない。

しかし、私立学校の売り上げの大半を占める授業料が政府の税金で賄われる以上、本来の顧客である家庭よりも政府の顔色が重視され、授業内容はおざなりになっていくだろう。  

 

そして、元々私立学校に通わせる親はさらに予備校・学習塾にも通わせており、結果として予備校・塾産業がさらに栄えるだけになる。

なぜなら、そちらは「価格」がついていて、その価値がわかるようになっているからだ。

そのため、教育税負担化は、私立の腐敗が蔓延するだけでなく、学習塾・予備校への実質的な補助金になるだろう。

まさに学校の破壊に拍車をかけるものだ。

 

■子育て・教育以前に、結婚する若者の人数が減少  

一部の政治家は、私立学校の教育税負担化で「公立学校が淘汰されることになるから良いのだ」という人々もいる。

たしかに、彼らの本音が、公立学校の土地を売り払いかつダメ教員を削減したい、ということであれば、多少は気持ちが分からんでもない。

しかし、上述の通り、不必要かつ無用な問題を新たに生み出す行為に追加で予算を投じることは間違っている。  

 

よりオブラートに包んだ「少子化で学校が過剰に存在しすぎるようになるため」という建前を掲げる場合はなおさらだ。それらの話を住民に説明して納得を得ることが地方自治であり、国の制度化することによって一気にそれを進めることを是とするなら、その政治家は地方自治を語る資格がない。早々に地方自治体が持つ全権限を国に移譲して問題を解決してもらうべきだ。  

最後に、教育税負担化は「少子化対策に寄与する」ので、全国民が税負担することは当然だ、という主張にも疑問を呈したい。

子どもが生まれない原因は、若者の手取りが減少して子育て・教育以前に結婚する若者の人数が減少しているからだ。労働法制の硬直化による年功序列制度、若者に対する税金・社会保険料の過剰請求、これらによって彼らの給与・手取りは異常に安い価格に抑えられている。

仮に石破首相が恒久的な支出に対する恒久的な財源(=増税)で、教育税負担化を賄おうとするなら本末転倒甚だしいことだ。

 

■「少子化対策に寄与する」はウソである

 また、少子化の原因は女性の高学歴化・高キャリア化が進むことで晩婚化・晩産化が進んでいることにもある。

女性のキャリア志向が高まる中で、そのキャリアを一時中断するコストとリスクは非常に高い。

したがって、キャリア形成に重要な若年段階で子どもを持つことは忌避されるのは当然だ。

これは単なる構造問題であって良い・悪いという問題ではない。

その結果として長子の晩産化が進みつつある中、「第二子・第三子を私立高校に税負担で通わせられるようになったから子どもを産みます」ということを期待することは妥当だろうか。  

 

現在でも高校進学率98%超であり、結局は学習塾・予備校産業に追加で家計支出が行われる可能性に鑑み、私立高校の教育税負担化が出生率に影響を及ぼすとは考えがたい。  

 

以上のように、私立高校の教育無償化=教育税負担化には日本国民の公益に追加で資するメリットらしきものが見当たらない。

むしろ、デメリットのほうが大きいように考えられる。この政策を推進する人々が夏の参議院議員選挙で大敗し、私立高校の教育無償化という愚策が撤回されることを望んでいる。

 

---------- 渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)

 早稲田大学公共政策研究所 招聘研究員 パシフィック・アライアンス総研所長。1981年東京都生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』(すばる舎)などがある。


 
 
 

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