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「高校授業料無償化」について No.3

昨日「高校授業料無償化」について記事をアップしたところですが,今日はまた,関連する記事が出ていたので,さっそくそれをアップします。


実はデメリットだらけの「高校授業料無償化」 日本維新の会による党利党略で「大阪府」が丸もうけ 古賀茂明

3/11(火) 6:32配信

 3月4日、2025年度当初予算案が、自民党、公明党、日本維新の会の賛成多数により衆議院を通過した。少数与党政権にとって今国会最大の山場を乗り越えたことで、石破茂首相は、とりあえず、ほっと胸を撫で下ろしていることだろう。

今回の衆議院通過を可能にした最大の「功労者」は日本維新の会だ。  自公政権の予算案に賛成することは、維新が自公に擦り寄ったと見られるリスクがある。今夏の参議院選挙を控えたタイミングを考えると、非常に思い切った決断だ。その背景には何があるのかと気になる人も多いと思うが、今回はその話ではなく、維新が予算案に賛成する最大の理由となった「高校無償化」がいかに問題の多い政策かを論じるとともに、財務省の影響下にある自民党が陥る教育予算増大による「赤字国債発行恐怖症」について考えてみたい。  まず、「高校無償化」についてだが、本題に入る前に、今回通過した予算案に盛り込まれた「高校授業料の無償化」とは何かを確認しておこう。  現状では、就学支援金という制度があり、高校などに通う子供がいる年収910万円未満の世帯に公立・私立を問わず年11万8800円を支給している。さらに、私立(全日制)の場合は、年収590万円未満の世帯には年39万6000円を上限として加算することになっている。23年度は全国の7割にあたる239万人が制度を活用した。  今回の自公と維新の合意では、25年度から公立・私立を問わず支給する年11万8800円の支援金に関して年収910万円未満という所得制限を外すこと、26年度からは私立の場合の上限額を45万7000円まで引き上げるとともに年収590万円未満という所得制限を撤廃することとされた。  この内容を理解した上で、「高校無償化」の意味を考えてみよう。  高校無償化については、維新のみならず、国民民主党も立憲民主党もこれを支持する立場を表明している。有識者の中にもこれを評価する人がいる。もちろん、私立高校の関係者には手放しで歓迎する人が多いようだ。  経済的理由によって私立高校を選択できなかった子供に私立進学の可能性を与えることになれば、もちろん、その子供や家庭にとって直接的に大きなメリットを与える。

■専門家が「無償化」を批判する理由  また、社会全体として見ても、格差拡大が問題視される中で教育格差の解消は最大の課題の一つであるから、その意味で無償化のメリットは大きいとも思える。  私立高校と言ってもピンからキリまでいろいろある。  難関大学への進学率が高かったり、系列大学への推薦入学枠があったりして人気の有名校は資金的に余裕があるが、公立に比べて高い授業料がネックとなって、定員割れあるいは定員割れ寸前という私立高校もある。  そうした下位の高校では、教育の質を上げるための投資や教員のスキル向上などに充てる資金がなかった。もし、高校無償化で、生徒が増えれば収入も増加し、そうした費用が捻出できて、私立高校の教育の質が上がる可能性はある。  以上が、高校無償化のメリットとして挙げられることだ。  しかし、そうしたプラスの効果があるのかどうかには大きな疑問がある。  実は、高校進学率は、通信制を含めるとすでに98%超だ。ほとんど全員が高校に進学している。  したがって、支援金を増やしたから進学率が上がるということはほぼない。特に、11万8800円の公立・私立共通の支援金の910万円の所得制限廃止は、ほとんど意味のない政策だ。選挙目当ての「バラマキ」と言って良いだろう。  一方、私立の場合の支援金引き上げは、それによって低所得層の子供が私立に行けることになる可能性があり、機会均等という意味でプラスになると言えそうだ。また、590万円という比較的低い所得制限の廃止も同様の効果を持つ可能性は否定はできないが、それほど大きな効果ではないだろう。  一方、専門家の間では、かなり否定的な意見が多く出されている。  一番深刻な問題は、私立高校を実質無償化することにより、多くの生徒が公立ではなく私立を選ぶということだ。  日本経済新聞によれば、24年度から実質無償化を段階的に進めている大阪府では、志願者の公立離れで、全日制府立高校145校のうち半数近い70校が定員割れになった。大阪府では、3年連続で定員割れが起きると統廃合の検討対象となるが、これまでに15校の廃校が決まり、25年の出願状況を見ると、さらに20校以上が検討対象になる可能性があるという。

■中学受験の競争激化も必至  また、東京都では、やはり24年度から実質無償化にしたら、25年度の全日制都立高校の一般入試の倍率が1.29倍と、1994年度以降で最低となった。  もし、全国で無償化が実施されれば、日本中で急激な公立離れが起きる可能性が高い。そうなれば、公立高校が財政的にさらに苦しくなり、その質が落ちる。その結果、さらに私立に流れるという悪循環に陥れば、最終的には、公立高校の教育崩壊というのも杞憂とは言えないだろう。  公立高校がなくなると地方の人口減少に拍車がかかるという指摘もある。24年5月時点ですでに公立高校が存在しない市区町村が28.9%、1校のみの市区町村が35.0%に上っている。高校の存在は、人口減少を食い止める「ダム効果」があるとされるが、それが失われて、地方創生とは反対の効果が生じることが懸念されるのだ。  この他にもここでは書ききれないくらい多くの問題が指摘されている。その一部を簡単に紹介しておこう。  まず、支援金が増えると、その分だけ授業料を値上げする私立高校が出てくる可能性がある。これは最悪の状況だ。授業料以外のさまざまな費用を増加させるかもしれない。  第2に、私立高校への志願者が増えると、財政的に楽になるため、一部の私立はあぐらをかいて努力を怠り、本来は淘汰されるべき質の低い私立高校の温存につながる可能性もある。  第3に、元々ある程度余裕のあった私立高校に通う子供がいる世帯は、支援金増額でできた余裕金を塾代に回す可能性が高い。塾はさまざまな名目のサービスを拡大しているが、その費用は天井知らずの状況だ。これがさらに拡大すれば、公立高校にしか行けない低所得層との間で格差が拡大するだろう。  第4に、私立ではそもそも中高一貫校が多いということが見落とされている。私立中学に入るためのお金がない家庭では、高校だけ無償化すると言われても行きたい私立高校につながる中学への受験ができないために結局行けないということが起きる。それを防ぐためには、私立中学も無償化しろということになる。その結果、中学の受験競争が激化するのは必至だ。  中学を無償化しなくても、高校が「タダ」なら、中学受験にもっとお金がかけられるということになって、さらに受験戦争が激しくなるかもしれない。  無償化の対象になる私立高校は、高校からの募集枠をかなりの規模で設けるという対策などが必要かもしれない。

■なぜ議論が「高校の」無償化に偏っていたのか  公立高校がなくなるという問題の指摘については、選んでもらえないならなくなっても仕方ないという暴論も耳にするようになった。ちなみに、維新は、元々、公務員に対して非常にネガティブな態度を取るのが特徴だ。大阪府市で、労働組合と闘ってきたということが背景にあるのかもしれない。特に公立には日教組に属する教員もいるため、シンパシーどころか敵意を持っているのではという疑いさえ出てくる。  以上の議論を聞くと、大きな疑問が出てくる。そもそも、どうして私立に行く必要があるのかという問題について、なぜ議論されないのかということだ。公立高校で十分な教育が行われるのであれば、高い授業料を払って私立に行く人に支援金を出す必要はない。  しかし、実際には、私立人気が高まっている。それは私立の方が大学受験で良い成績を上げている学校が多いとか、特色ある教育を行っているというような理由からだろう。  それなら、公立でももう少し良い教育を行ったらどうか。多くの低所得層の子供が通う学校の質を上げて、大金を払える私立に通う子供と同じではないにしてもそれほど遜色のない教育を行えるようにすべきだ。  そのために、公立高校の教員の給与を上げる、教員の研修を増やす、教育内容をグローバル化やデジタル化に対応させる、塾に通えない子供達のために放課後に無償で受験勉強や補習などを行う、教育そのものではない付随業務を担う職員を増やす、部活の負担軽減のための外部サービスを利用するなど、高校教育の質を上げるためにできることは山ほどある。  そのために、無償化のための予算を回すべきだ。それで足りなければ、予算を大幅に追加しても良い。  さらには、98%超の子供が高校に進学していることを考えれば、高校を義務教育にすべきではないか。  もう一つ、おかしいのは、今回の議論がなぜか高校無償化に偏っていたことだ。そこには、維新の良からぬ計算があったのではないか。  大阪府ではすでに高校無償化を行っているが、今回これが国の施策になることによって、大阪府の予算を国が肩代わりする効果が生じる。大阪府としては丸儲けということだ。

■公立教育を崩壊させるような愚策  前述のとおり、中学教育の問題もあわせて議論すべきだったし、さらには、実は教育の効果が一番大きいのは幼児教育であるという点を踏まえた、幼児教育の義務教育化などの議論も行うべきだった。  大学教育における格差問題も非常に深刻だが、これもスルーされた。  実は、日本は、先進国の中でも教育にかける公的予算の比率が非常に少ない。これまで述べたことを真剣にやろうとしなかったからだ。自民党の責任は重い。  自民党は、高校無償化の議論の中で、赤字国債の発行をしない範囲にとどめるべきだと考えていたと報じられた。しかし、これは、非常に古い考え方だ。  教育予算は、コストではなく将来への投資である。ここで使う資金は、その場で消えてしまうのではなく、5年後、10年後には子供達が大人になって活躍を始め、経済や社会に貢献する。結果的に税収も増える。道路や橋と同じで投資的な経費だと考えるべきだ。その財源は、建設国債を考えれば良い。  もちろん、選挙目当てで富裕層にまで給付して、公立高校教育を崩壊させるというような愚策のための支出は認めるべきではないが、公立高校の教育の質を上げ、低所得層も含めて希望する全ての子供が大学教育に進む機会を提供されるようにすることができれば、無駄な道路をつくるよりはるかに確かなリターンが得られる。  自民党保守派は、防衛費増大を最優先としているが、石破首相は、これと一線を画し、また野党が仕掛ける安易な教育ばらまき競争を拒否しながら、「教育格差解消と学校教育の質の飛躍的向上を教育予算倍増によって実現する」と国民に約束してはどうか。

 
 
 

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